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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)9866号 決定 1960年10月03日

原告 牛島定

被告 国 外一名

訴訟代理人 武藤英一 外一名

主文

本件各移送の申立を却下する。

理由

被告石井のした移送の申立の要旨は、

第一、本訴中被告石井に対する訴は当裁判所の管轄に属しない。

即ち

(1)  同被告の住所は昭和三三年九月から千葉市椿森町五一二番地に住民登録をし、同所に建坪十坪余の建物を有し、名刺その他にも右場所を住所として表示しておるのであつて、同所が住所である。原告が本訴で同被告の住所と表示する場所は、同被告の法律事務所を設けた地であり、家族が居住して同被告が宿泊することがあるが住所地ではない。

(2)  原告の本訴損害賠償を求める同被告の不法行為は同被告が原告を名誉毀損の罪ありとして千葉地方検察庁に告訴したものであるから、右行為地は千葉市である。

(3)  民事訴訟法第二一条は主観的併合訴訟には適用がない。

従つて同被告に対する訴は、その管轄裁判所である千葉地方裁判所に移送することを求める。

第二、また本訴につき当裁判所の管轄に属するとされるも、右の如く同被告の告訴した地は、千葉市であり、これにより検察官が原告を起訴した庁は千葉地方裁判所であり、原告の右刑事事件記録は現在同裁判所に係属中の他事件のため取寄せ留置かれており、同被告が申出予定の証人は殆んど千葉県下に居住する者であるので、これら証人の出廷及びその費用予納の点から被告の著しき損害及び本訴審理の遅滞を避けるため千葉地方裁判所に移送することを求める。

しかして右申立については速やかにその判断を示されたい」というのである。

よつて当裁判所は決定で右各申立の当否の判断を示す。

右申立第一について、

本訴は原告が被告石井の千葉検察庁検察官に対する名誉毀損の疑ありとしての告訴行為を不法行為としての損害賠償及び同告訴に基ずく千葉地方検察庁検察官検事平井太郎の右罪の千葉地方裁判所に対する起訴を不法行為として国家賠償法により国にその損害賠償を求める事件であり、原告は被告石井の住所を東京都にあるとして提起したものである。被告石井は住所は千葉市であり東京都中野区氷川町二八番地には同被告の法律事務所及び家族の住所地であると主張する。この点については原告は被告石井が千葉市に住民登録をしていることは認めるが、同所は表見的住所であつて、その生活の本拠はその家族の居住する中野区であると反論するが、原告提出の証拠によつてはいまだ同被告の住所を訴状記載の場所(中野区氷川町二八番地)とは認め難いから、同被告の普通裁判籍ないし不法行為地の裁判籍は当裁判所に属しないものといわねばならない。そこで本訴につき民事訴訟法第二一条の併合請求の裁判籍の適用があるか否かにつき考えるに、同法は主観的併合訴訟には適用ないとの見解には左袒し得ないのであつて、同一の事実上及び法律上の原因に基く請求ないしはこれと同様に見られる牽連関係ある事実原因に基く請求にも適用があると解するところ、本訴は前記の如く被告石井の告訴により検察官が親告罪である名誉毀損罪として原告を起訴した各不法行為を原因とするもので、右被告の告訴は検察官の起訴の前提及び要件であり、その原告の名誉毀損の生活的事実は同一であり、民法の不法行為に基く損害賠償も国家賠償法に基くそれ(公務員の不法行為に対し国が肩代りしてその責に任ずるにすぎない)も法律上全く同一の原因と見られるほど類似しているのであるから同法条の適用あるものと解する。しかして、被告国の普通裁判籍が当裁判所にあること明らかであり、前示の如く本訴について当裁判所に併合請求の管轄権が認められるといわねばならない。

よつて被告石井の当裁判所に管轄権なしとの申立は理由がない。

第二、次に被告石井の第二の民事訴訟法第三一条による移送の申立について判断する。本訴請求原因である検察官平井太郎起訴の原告に対する刑事々件記録が現在千葉地方裁判所に同所で係属審理中の地事件のため取寄せ留置かれているとしても、本訴の審理に渋滞をきたすとは思われず、被告石井の法律事務所は東京都中野区であり、同被告申出予定の千葉県在住の証人は幾名あるかは本件記録上不明であつて、同被告に著しい損害を生ずると認めるべき資料はない。その他本訴を千葉地方裁判所に移送する必要があると認めることのできる事情は右記録上存しないから右申立も理由がない。

以上のとおり被告石井に対する本訴は当裁判所の管轄に属し、また本訴を著しい損害又は遅滞を避けるため千葉地方裁判所に移送すべき必要も認めないから、同被告の本件各申立はいずれも理由がない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 大前邦道)

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